世界を変えてみよう。と考えたことはあるだろうか。
約17年前の名作で観たことがある人もいると思うが、何度見ても心が動く。
ケヴィン・スペイシー演じる中学の社会科の教師シモネット先生が投げかけた質問。
「もしきみたちが世界を変えたいと思ったら、何をする?」
まずは自分の出来る範囲で世界を変えてみよう。と新学期早々、ピカピカの中学一年生達に宿題を出すところから物語は始まる。


聡明なトレバー少年(ハーレイ・ジョエル・オスメント)は考えた。

聡明なトレバー少年(ハーレイ・ジョエル・オスメント)は考えた。
「そうだ。自分の周りにいる3人に親切にしてみよう。そしてその親切を受け取った三人は僕に恩返しをするのではなく、また更に別の3人へと親切を広げるよう伝える。そうすれば、3人、9人、27人と増えていき、世界中に広がるはずだ。」




作品の舞台はラスベガス。
といっても煌びやかな表の顔とは裏腹に、繁華街の裏側が舞台。
薬物依存者やホームレスも居るし、更地もそこら中にある。
繁華街を抜けるととても田舎で、その差が悲しさや寂しさを余計に倍増させる。
アルコール依存症のシングルマザー・アーリーン(ヘレン・ハント)の下で暮らすどこか寂しげなトレバー少年を、天才子役と言われたハーレイ・ジョエル・オスメントが名演を見せる。
いつも寂しい、だけどお母さんが大好きで守りたい。でもまだ体も小さい自分では守れない。とにかく嫌なことは全部聞こえないようにすればいいだけだ。
でも何か変えたい。変わりたい。


トレバーについて「聡明な少年」と紹介したが、聡明な人とは。
大人や子どもを問わず、相手の気持に寄り添うことができ、且つその人のために何が出来るか能動的に行動できる人のことを指す、と思う。
子どもの脳はスポンジだ。関わる大人次第でいくらでも可能性は広がるはずだ。


映画が始まって5分で既に見てよかったと思えた。
冒頭のシモネット先生の道徳による授業を受けている気になったのだ。何か導いてもらえるのではないか、とワクワクした。
終盤では、泣かせるザ・ハリウッド映画感は否めないが、悲しいバックグラウンドをソフトに描いていて、観終わった後は優しい気持ちになるはずだ。

毎日走るように日々を過ごす人。休日が来ても目的もなくなんとなく過ごす人。子育てに追われている人。自分の役割がわからなくなっている人。変わらない毎日に退屈している人。誰かに必要とされたい人。
それは様々だけど、多くの人が自分はこれでいいのだろうか。自分はこれでいいのだろうか。と自問自答したことはあるだろう。

そんな今の自分に疑問を抱いたことがある人には特にこの映画をおすすめする。
この少年の行動力と勇気と純粋さに、多くのものを学ぶことができるだろう。


『ペイフォワード』という映画は、アメリカの女性作家の小説が元となっている




この『ペイフォワード』という映画は、アメリカの女性作家の小説が元となっており、原作者はこの小説の誕生秘話についてこう語っている。
夜中、そして治安の悪い街でエンストして困っていたら、見知らぬ男性二人が近づいてきた。「襲われる!」と思い覚悟したところ、快く助けてくれたそうだ。
そのまま名も告げず去っていった男性二人を見て「善意を他人に回す」という思考が生まれたと明かしている。


現代人の疲れた心は、無償で誰かに優しくすることで癒されるのではないか。
自分の身の周りが優しい人たちで満たされたらどうなるのか。その優しさは更に多くの人へ伝わるものなのかもしれない。自分が分け与えた優しさや幸せが人に伝わると、分け与えた自分の方がいい気分になったりする。
勇気を出して電車で席を譲った行為そのものがなぜか自分もいい気分になることはないだろうか。
自己満足と言えばそうなのだが、それでもいいじゃないか。

多くの人間は欲に支配されていて、自分のことばかり考えてしまうもの。
そして綺麗事だけでは世の中は回らないことも分かっている。


終盤のシーンで、トレバー少年のアイデアが回り回って一大ムーブメントになったことでメディアが取材に来る。そのインタビューで語った話が印象的だった。
「本当は、世界は思ったほど、クソじゃない。」
「だけど日々の暮らしに慣れ切った人たちは、良くない事もなかなか変えられない。だからあきらめる。でもあきらめたら負けなんだ。」




この作品は人生を指南するような内容ばかりではないので、さぁ考えさせられる映画を観るぞ!と意気込まなくていい。
トレバー少年の母アーリーンの恋路も織り交ぜてしまうラブコメのようなシーンも、物悲しい背景を優しくしてくれる。
そしてアーリーンが息子のために奮闘している姿もなんだか可愛くて、素直に応援したくなるし、重いようで意外と軽い。
子どもを立派に育てるには、小難しいことなんて考えなくていい。
大きい愛でしっかり包み込んであげることが一番大事なことに改めて気付かされる。

子どもを立派に育てるには、小難しいことなんて考えなくていい。大きい愛でしっかり包み込んであげることが一番大事なことに改めて気付かされる。

そして社会生活においても、これから見返りを求めずに誰かに親切にすることを意識してみてはどうだろうか。
自分も相手もいつもの日常も少しだけいい気持ちで過ごせるはずだ。
そして本当に幸せであれば、誰かに分け与えたくなるはずだ。
先人が皆口を揃えて言ってきたことを何を今更。と思うだろうが、百聞は一見に如かず、まずは映像で感動してから実践してみるのも悪くない。


written by MARI KANATANI

 

 

 

 

『ペイ・フォワード』
DVD 1,429円 +税
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
公開:2000年(アメリカ)