
ママでありながら、自分の魅力を生かして活躍する素敵な女性たちをご紹介する企画「mama creators interview」。
8回目にご登場いただくのは、フラワーアーティストの前田有紀さん。アナウンサーとして活躍し、キャリア10年目で退職して、イギリスに留学、花や庭のことを学びました。帰国後は都内のフラワーショップで修業し、妊娠を期に独立・起業。
現在は「SUDELEY」の代表としてオンオフともに充実した毎日を送っています。「東京を花と緑にあふれた街にしたい」という夢を持つ前田さんに、お仕事や子育てのこと、新しく立ち上げたプロジェクトについて語っていただきました。
子どもを中心に、試行錯誤しながらの仕事

1歳半の息子さんは、4月から保育園に通い始めたばかり。「子どもと過ごす時間を大切にしていきたい」と語る前田さんの1日は濃密です。市場にいってから自宅で作業をする日は、早朝4時〜5時に車を運転して市場へ出て花の仕入れをしてから、帰宅。家族の朝ごはんを準備している間に、ご主人が息子さんの支度を分担しています。
ご主人が息子さんを保育園に送ってくれたら、日中から夕方までは前田さんの仕事の時間。花の水あげ、取引先との打ち合わせ、サンプル制作、会計など、限られた時間のなかで仕事をこなし、夕方以降はママっこの息子さんとふたりきりで食事やお風呂の時間を楽しむようにしています。
息子さんが小さい時には、どうしても溜まったメールの返事を優先することもありました。けれど、息子さんを見ると寂しそうな顔をしていることが何度かあって以来、夕方以降は家族の時間と決めて時間を区切るように。
仕事ではデザイン画を描く機会が多いという前田さん。
緑色や茶色など植物や花を描く時にバリエーションのある色鉛筆を愛用しています。
子どもを優先しながら、働くこととのバランスをとることの難しさを実感している前田さん。
一時保育を利用していた時には、予約が取れたら仕事のスケジュールを組んでいました。時には、ベビーカーで仕事場に入り、息子さんが寝ている間に装飾の仕事を済ませたことも。
「仕事で関わる方たちや家族など、周囲の理解があったことで助けてもらった場面もありました。」
仕事を受けるかどうか、スケジュールをどうこなしていくか、全て前田さん自身が決断するうえで、「子どものためにやることをクリアできているか」を基準にしているのは、母親になってから子どもと過ごす一瞬一瞬の大切さを実感したから。
それは、大好きな花と触れ合う仕事を通じて経験したことでもありました。
子どもにとっての“体験”の大きさ
帰国後に働いていたフラワーショップではキッズスクールを企画して、子どもたちが楽しみながら植物に触れる機会を提供していたという前田さん。
「参加してくれた子どもの中にはリピーターもいて“去年使ったガーベラだ”と、花の名前と一緒に出来事も覚えていてくれる子も。大人にとっては日常のひとコマですが、子どもにとって母の日の寄せ植えや、クリスマスリースを作ったことは大切な思い出になるんだ、と気づかされました。」
息子さんが生まれてからは特に、日々の暮らしの中でも子どもの成長を感じています。
鎌倉で暮らす一家にとって、初夏の花といえばあじさい。「あじさいを指差しながら息子と散歩していたら、“パパ”“ママ”の次くらいに“あじさい”が言えるようになりました」と、小さな出来事と喜びの積み重ねで、子どもと一緒に母親としても成長を感じています。
保育園に通い出してからは毎日泥だらけになって遊んでいる息子さん。一緒にお風呂に入りながら泥だらけの服を洗っていると、手伝ってくれるようになりました。
「ちょっとしたことでも、一緒にやること、体験することで得られるものがあると思うし、笑顔になれます。」
子どもに“自然のある生活”を贈るために鎌倉へ移住
鎌倉に暮らす前田さん一家にとって、あじさいはとても身近な花。妊娠を期に、ご夫婦で話し合って鎌倉へ引っ越したのは、“自然のある生活”を通じた体験を子どもに贈りたいと考えたからでした。

リビングからは庭や山が、洗面所やキッチンの窓からも緑が見える、自然に囲まれた立地です。
「夫と子育てしたい環境について話し合った時に、都会での子育ても候補にあがりました。都会なら子どもに勉強や習い事のきっかけを与えることができるし、会社員の夫には通勤が便利というメリットも。でも、私たちふたりとも自然が好きだったことと、親として“これだけはしてあげられた”と思えることが、自然の中でのびのびと暮らすことだったらいいね、となって。」
自然が身近にある鎌倉では、のどかな空気や目覚めの鳥の声、夜の星空が暮らしの中にあります。
「家の中に虫が入ってきたり、スーパーが遠かったり、不便なことはたくさんあるけれど、自然が色濃く残る環境で子育てができる幸せの方が大きい」と語ってくれました。最近、保育園の近くにある池のザリガニに夢中という息子さん。これも、自然豊かな環境ならではの経験です。
家中に飾られた花は“楽しさ”がテーマ

フラワーアーティストという職業もあって、花に囲まれて生活している前田さん。取材にお伺いした日も、生花やスワッグ、花冠など玄関やリビングにたくさんの花が飾られていました。
仕事で使った花が多いといいますが、家に飾る時には自身が「楽しい」と感じるようにアレンジしています。
「型にはまるのが好きではない」と語る前田さんは、実験的な色づかいに挑戦したり花器にとらわれずに花をいけたりと、花のある生活を自由に楽しんでいます。
毎日接するうちに、子どもも花に優しくできるように
「家に花を飾っていると、友人から子どもが花器を倒したりしないか心配されますが、“やさしくね”と教えているうちに自然と理解してくれるようになりました。花器にぶつからないように気をつけてくれているのがわかるし、最近は花をなでるような動作をすることもあるんです。」
壁面には、色とりどりの花々を束ねたスワッグ。ドライになっても楽しめますが、1シーズンごとに入れ替えているそう。
「花の飾り方や花器の選び方がわからない、と相談されることが多いです。私自身も花に触れるうちにわかることが多かったので、みなさんにもぜひ気軽に挑戦してほしいと思っています。我が家の花も花器に限らず、コップやワインクーラーなど、いいと思ったらなんでも使います。」
方法や形にとらわれず、まずは試してみる
「“花について知らない”と同じくらい、“枯らすのが怖い”という声もよく聞きます。花や植物にも寿命があるし、花を飾っていると枯れていく過程もきれいだとわかってもらえるはず。繰り返すうちに花や植物とのつきあいかたも身についてくるので、まずは育ててみることをおすすめします。」
初心者でも、ハーブは丈夫なので育てやすく、なかでもバジルは暑さにも強いのでこれからの季節にもぴったり。カプレーゼやサラダ、スープなど普段の食事に使えて、「うちでとれたハーブだよ」と家族のコミュニケーションにも役立ちます。
前田家の庭にも、たくさんのハーブが。「ワイルドフラワー」と呼ばれるオーストラリア系の植物と一緒に、ローズマリーやラベンダー、タイムやミントを植えています。
普段の料理はもちろん、ブーケに使うこともあるのだそう。
イギリスでは“ベランダガーデニング”といって、庭のない限られたスペースでも植物を育てる習慣が根付いていて、ワークショップも頻繁に開催されているのだとか。日本のアパートやマンションなど、庭のない家に暮らしている人にも、気軽に始められる植物との付き合い方です。
忙しい人には花を飾るのがおすすめ

「忙しい人には、花を飾るのがおすすめです」と前田さん。自身もアナウンサー時代に六本木に勤め、都会暮らしをしていた頃、部屋に飾っていた花に元気をもらっていたのだそう。
「花屋さんは専門の知識がとっても豊富なので、気軽に話しかけてみてください。お話ししながらお客さんにお花を提案できることを喜びに感じている人が多いので、親身に相談に乗ってくれると思います。」
“してあげる”よりも“一緒にすること”を大切にしたい

仕事に育児にと、充実した毎日を過ごす前田さん。
「周りには子どもに習い事やお稽古をさせているママが多いんです。何かさせてあげたほうがいいのかな?と思うこともあります。でもやっぱり私自身は、子どものために身になる何かをする・してあげたことよりも、一緒にすることが大切だと思っていて。」
子どものためにもっとできることはないだろうか、と周囲と比べてしまう時にも、子どもと一緒にちょっとしたことでも体験できると、自然に笑顔になれると語ってくれた前田さん。家族で体験できるフォトプロジェクト「Blooming Family photo」も、そんな家族との時間を大切にしたいという思いからメンバーが集まり、始動しました。
子どもを持つ親でもあるスタッフの力を合わせた「Blooming Family photo」について、詳しくは下記の記事で。花と写真の力をベースに、お客様たち家族の力が加わってできあがるプロジェクトに込められた思いや、回ごとに変わる写真をいろどる花々、前田さんファミリーがお客さん第1号として参加した撮影風景などをご紹介します。
Blooming Family photoで心に残る家族写真を

https://hug-life.jp/trend/blooming-family-photo
Blooming Family photo
フラワーアーティスト・前田有紀さんとフォトグラファー・羽田徹さんのコラボーレションのプロジェクト。
「写真のチカラ、花のチカラ、家族のチカラ。それぞれのチカラが合わさって、ココロに残る家族写真を。」がテーマ。プロジェクトに参加するスタイリスト・田沼智美さんとヘアメイク・山下光理さんを含め、それぞれ「家族のために何かしたい」という想いから始まりました。お客さんひとりひとりと向き合って、自分たち“だから”できた、というスペシャルな写真づくりに取り組んでいます。
フラワーアーティスト 前田有紀

10年間テレビ局に勤務した後、2013年イギリスに留学。コッツウォルズ・グロセスター州の古城で見習いガーデナーとして働いた後、都内のフラワーショップで2年半の修業を積む。「人の暮らしの中で、花と緑をもっと身近にしたい」という思いからSudeley(スードリー)を立ち上げ、イベントやウェディングの装花や作品制作など、様々な空間での花のあり方を提案する。
Photograph by 根本健太郎