『mama creators interview」では、これまでに多ジャンルなシーンで活躍する素敵なママたちをご紹介してきましたが、今回は初のパパクリエイターが登場!『papa creators interview vol.1』とし、ビジュアル・アーティストとして活動しながらニューヨーク(NY)で3人のお子さんの子育てをする軍司匡寛さんに、“人種のるつぼ”であるNYの子育て事情や、ご自身の表現活動について、お話を伺いました。
アーティストと匿名、二領域での活動
匡寛さんは、現在NY在住。Kくん(10歳男の子)、Kちゃん(8歳女の子)、Sくん(3歳男の子)と奥様の家族5人で、約一年半前に千葉県佐倉市から移住されました。未就学児を含むお子さん3人を連れ、家賃などの物価が東京の倍以上とされるNYに移住されるまでの経緯、また現地でのリアルな子育て事情について、海外移住や長期滞在を考えているファミリーにとっては、大変気になるところ。そもそも“ビジュアル・アーティスト”とは、どのような職業なのでしょうか?
「ビジュアルアーティスト“Tadahiro Gunji ”と、デザインを中心としたクリエイティブ名義“POSTHYPHEN(ポスシフェン)”の二本軸で活動しています。自分が目指すデザインって裏方的で、職人のような部分が多いんですよね。なので、“POSTHYPHEN”では敢えて匿名性を高くして、自分の名前が前に出るというより、企業が未来像を示すのを助けたり、手がけた商品がうまく生活や文化に寄り添えるような、社会的な裏方として徹することができたらいいなと思っています。」
匡寛さんがアートディレクションとデザインを手がけたクラフトビールレーベル『うちゅうブルーイング』
ブランドのデザインディレクション/デザインを担当しているコールドプレスジュース『Why Juice』“Long-life Juice”シリーズ(写真提供:Why Juice?)
“Tadahiro Gunji”として発表している匡寛さんの作品はレジン(樹脂)を使った独自性の高いもの。日本での子育て中、お子さんたちと端材で棚など色々なものをDIYで作っていたことの延長でもあるといいます。
「デザインの社会的な役割と違う、自分の発露を研究したく始めました。純粋な絵画とはまた違って、自分が今までやってきたデザインの文脈というか、グラフィックデザインで培った構図や技術を生かせるものであり、さらに素材感があるものが作りたくて。一年くらい試行錯誤して、ここに落ち着きました。現在は、大好きな漫画を通じて桃山時代の美術の変遷に影響を受け、面白い形を目指して製作しています。NYで日本を再認識することが多いですね。」
Tadahiro Gunjiとしての作品『Collectivity 40』(写真提供:軍司匡寛さん)
「このシリーズにはグロッシーな表情があって、しかも表面張力が生まれるから、溝がオーガニックな線にみえるんです。それが作ったときに自分のアイデンティティになるのでは、と直感して。子どもたちには固まる前に触れられてしまって、何度も失敗してしまいましたが(笑)。」
NON-GRID Inc.に所属し、クライアントから依頼されたアートディレクションやデザインの仕事も多くこなす匡寛さんですが、そこから専門性の高い知識や社会情勢を学べることも多く、最終的なアウトプット先である自身の作品を構成する大事な要素となっているようです。
ブルックリンでの子育て
(写真提供:軍司匡寛さん)
NYの中でも新しいものと古いものが混在し、文化の中心として発展したきた区“ブルックリン”に居を構える匡寛さんファミリー。一番下のSくんがモンテッソーリ教育のプリスクール(保育園)に、兄のKくん、姉のKちゃんはチャータースクール(新しいタイプの公立学校)に通っています。朝は奥さんが子どもたちを送り、帰りは匡寛さんがお迎えに行くのだとか。
「午後3時ころ次男を迎え行き、一緒に買い物したり遊んだりしていると、妻が4時ころに帰ってきて。そのあとみんなで一緒に夕食をとり、また夜コンサートやライブなどに子どもたちを連れて出かけることもありますね。」
American Museum of Natural Historyにて (写真提供:軍司匡寛さん)
本格的な芸術に触れることが日常的に体験できるのも、NYで住んでいることの羨ましい特権です。そもそもお子さんたちに多様性を受け入れて、様々な文化に触れてほしいとの願いもあってのNY移住。子どもたちの感性を育てることが一番の目的だといいます。
MONDAYSのセラミックスタジオにて (写真提供:軍司匡寛さん)
「アメリカにはサマーキャンプといって、長い夏休みに集中して何かを学ぶという制度があるんです。最初本格的に移住する前に、子どもたちを2週間くらいサマーキャンプに参加させました。言葉が通じないという不自由さはあったようですが、数日もすればすぐに慣れてしまって。そういう段階を経てNYに移住したわけですが、去年のサマーキャンプは長男はギターを習う、娘は陶器を作るコースに参加していました。ギターキャンプは2週間かけてあるギターの曲をマスターして発表したり、陶器の方は色々な作品を作って帰ってきました。短期集中で色々なことを体験できるので、自分が好きなことを見つけやすいんですね。」
長男のKくん、Public Schoolで算数(Math)の受賞 (写真提供:軍司匡寛さん)
Kくんは、放課後の週4日、クラシックバレエのレッスンに通っています。NYに到着してから数日後、国際的バレエのエリート校“スクール・オブ・アメリカン・バレエ(SAB)”のオーディションを受けに行ったのだといいます。
「もともとは日本にいるとき、娘のKが習い始めたのですが、途中兄のKも先生に勧められ、バレエにのめり込みました。NYでもトップクラスのSABは実際のレッスン料はとても高額ですが、Kはスカラーシップ(奨学金)が取得できたので、レッスン料は無料なんですよ。といっても、男の子は招待制である程度まで、みんなタダなんですが(笑)。」
Sara先生のプライベートレッスンを受けるKくん (写真提供:軍司匡寛さん)
あるバレエ学校は全米のパブリックスクールに出向き、バレエに向いていそうな体型の児童をスカウトするのだそうです。「僕はバレエのために生まれてきた」とまでいうほどバレエに夢中なKくんの体つきは、プロお墨付きのバレエ向き体型なのだとか。世界のトップダンサーを排出するスクールで、自分の好きなことをプロフェッショルなレベルで学べるということ。未来ある子どもにとっては、最高の環境です。
テキスタイルアートセンターのサマーキャンプに参加するKちゃん (写真提供:軍司匡寛さん)
一方、長女のKちゃんはアートが好きで、放課後にテキスタイルアートセンターに通い、手縫いや織り機などを使う本格的なお裁縫を習っているのだそうです。3人のママである匡寛さんの奥さまも、NYにいる蒔絵師に弟子入りし、プロフェッショナルな「金継ぎ」の技術を学び習得して、今ではご自身でも人に教えるほどの腕前になったといいます。思い入れのある食器を、購入したときよりも高い金額を出しても直したいという富裕層など、興味のあるニューヨーカーは多いのだとか。夫婦、子どもたちがそれぞれ個性を発揮し、自分の道を切り開く姿、so amazing!
NYで暮らすということ
(写真提供:軍司匡寛さん)
「トランプ政権になる前回のアメリカ大統領選挙で、民主党から立候補していたヒラリー・クリントン氏と戦っていた、“バーニー・サンダース”という政治家がいますが、アメリカの若者に大変人気なんです。それで、なぜなのか気になって彼の自伝を読み始めて。彼は自らを「民主社会主義者」と称し、「世界では0.1%の人が持っているお金と下から数えて90%の人が持っているお金の金額が同じ」だというんです。そういう不平等な世の中を問い直し、民主主義的に平等化しようと革新的な運動や活動を行っている人なのですが、僕も彼の提唱する民主社会主義が叶えられた世界で子どもたちが育ったらいいなと、NYに来てから強く願うようになりました。」
キュートなお顔ながら電車と虫が大好きという男の子らしい末っ子のSくん (写真提供:軍司匡寛さん)
材料のクオリティが高いなど、「創作活動自体は日本での方がやりやすい」という匡寛さん。それでも、やはり刺激的なアーティストに出会えたり、活動の幅を広げるポテンシャルのある“NYで暮らす”という選択に、アーティスト“Tadahiro Gunji”の意志を感じました。あとはそんな素敵なお父さん、お母さんと一緒にパワフルに生きるお子さんたちの将来も楽しみです!
軍司 匡寛 / Tadahiro Gunji
1978年生まれ。東京芸術大学美術学部デザイン科卒。クリエイティブコレクティブPOSTHYPHENを主宰。クリエイターとしてNON-GRID Inc.に所属し、デザイン、テクノロジーの可能性をクライアントへ提案、具体化し、社会の趨勢を言い表す現代の言語を探っている。これら言語を咀嚼し、ビジュアルアーティストとして、様々なメディアの作品へ可視化を試みている。
http://gunjitadahiro.com/
POSTHYPHEN
NON-GRID
Why Juice?
UCHU BREWING
(Text&Edit:Nao Asakura)
(Photo:Kosumo Hashimoto)