ママでありながら、自分の魅力を生かして活躍する素敵な女性たちをご紹介する企画「mama creators interview」。6回目にご登場いただくのは、フォトグラファーの田尾沙織さん。雑誌や広告、映画、CDジャケットなど多方面で活躍されている、日本を代表する女性写真家の一人です。今回お子さんとよく遊びに行かれるという公園にお邪魔し、子育てのこと、お仕事のこと、お子さんとの将来のことなどについて、お散歩しながら話を伺いました。

500gで生まれた男の子が、2歳半に成長

田尾沙織さんと息子の奏介くん


沙織さんの息子・奏介くん(現在2歳6ヶ月)は、出生時の体重が500gと、超低出生体重児でこの世に産まれました。沙織さんは誕生から入院生活の265日間、そして退院後から現在に至るまで、奏介くんが成長する様子を毎日のように自身のインスタグラム @tao_saori で公開しています。

フォロワーの中には、同じような境遇で子育てをするお母さんやお父さんもおり、小さく生まれながらも元気に育っていく奏介くんの姿に、多くの人たちが励まされています。また、プロのフォトグラファーであり、お母さんでもある沙織さんが撮影した奏介くんの写真は、子育てをしている人、そうでない人たちもみんなを幸せな気持ちにさせてくれます。

田尾沙織さんが撮影した子供たち

沙織さんが撮影した写真。子どもたちへの温かな眼差しが映し出されています。

明るく、生き生きと子育てをされている沙織さんですが、超低出生体重児であった奏介くんをここまで育てられるには、楽しそうにうつる写真だけでは想像することのできない苦労がありました。


田尾沙織さんと息子の奏介くん


「生まれた直後が一番辛かったです。いつ息子の状況が悪化して亡くなってしまうか、3日間生きられるかどうかもわからなかったんです。一つ良くなると、またどこか悪いところが見つかり、一時は未熟児網膜症になって最悪の場合、失明も覚悟しなければなりませんでした。生きていても、何らかの障害が出る可能性があるとNICUの医師からも言われていたので、もっと重い障害が残ると思っていました。
数ヶ月間はおっぱいをあげることも、抱っこすることすらもできなかったので、初めてカンガルーケア(お母さんが素肌で赤ちゃんを抱っこする)ができたときの気持ちは今でも忘れません。約8ヶ月半の入院を経て、息子が退院できたときが一番うれしかったです。」


田尾沙織さんの息子奏介くん

夢は親子留学。息子が夢中になれるものを見つけたい

話をしている間も始終動き回る、大変活発な奏介くん。超低出生体重児は発達障害や学習障害の確率が高く、奏介くんも発達障害の疑いや、知能的な遅れがあると沙織さんは言います。


田尾沙織さんと息子の奏介くん

「息子は実物を見てから理解することが多いようなので、これからもっと旅に出て、実際にものを見たり触れたりと、色々な体験をさせていきたいと思っています。もっと大きくなってからの目標は親子留学。周りの子に追いつかなかったとき、国によってはその子の能力によって学年を選ぶこともできるんです。それと将来、奏介が運動面や勉強で劣等感を得ることがあるかもしれません。そのときに、語学など得意なことを身につけておければいいなと。好奇心旺盛なので、何かしらに興味を持ち、生涯夢中になれることを見つけてあげられたらいいですね。」


田尾沙織さんの息子奏介くん
車が大好きな奏介くん。「ダンプカーとショベルカーがお気に入りで、寝ても覚めてもトミカで遊んでいます」


生まれたときに肺が膨らんでいなかったということもあり、身体を強くするためにも水泳を習わせたい、と話す沙織さん。
「幸い、海に行ったとき水を怖がっていなかったので。今は、肺はレントゲンで見る限り正常の大きさになっているようで一安心です。落ち着きがないので、礼儀作法を身につけられるよう空手などの武道もやらせたいな。」

奄美大島でとれたてのトマトをガブリ



3月に発売された、俳優・杉野遥亮さんの写真集「あくび」の撮影で奄美大島、加計呂麻島を訪れた沙織さん。奄美大島は羽田空港から2時間と移動時間も短く、子連れで行く国内旅行にはとてもおすすめだとのこと。今年の春、再度プライベートで奏介くんを連れて訪れたそうです。


田尾沙織さんと息子の奏介くん


「泳ぐには少し寒い季節ということもあり、今回は泳ぐ目的ではなく、大好きな砂遊びを思う存分きれいな砂浜でさせたいと思い、ビーチが目の前の宿にしました。毎朝、砂遊びとヤドカリ探しをしたり、近所にローカルな海洋博物館があって、ウミガメにレタスをあげたりして過ごしました。その体験が楽しかったらしく、“ウミガメ”という単語も覚えて。好き嫌いが多く、生野菜は一切食べなかったのですが、奄美ではとれたてのトマトが美味しかったみたいで、かぶりついて食べてくれたんです。

東京に戻ってからはトマトは火が通ってないと食べてくれないのですが、トマトを食べる前は、トマトを指差してその後に外を指差すので、『奄美で食べたね。美味しかったね。』と言ってあげると、うれしそうにうなずいて食べてくれます。」
ふたりのやりとりが目に浮かびます。奏介くんにとって、「トマト=奄美大島」という印象が強く心に残っているのでしょうね。

お母さんと子ども、唯一無二の絆

田尾沙織さんと息子の奏介くん
田尾沙織さんと息子の奏介くん


日常的にカメラを持ち歩き、奏介くんの写真を撮り続けているフォトグラファーママ。「子どもの目線の高さで撮ると、臨場感が出てインパクトのある写真になります。逆光を利用すると柔らかい髪の毛の質感や、産毛が光ってかわいく撮れますよ」


田尾沙織さんと息子の奏介くん

「奏介を出産してから退院するまで、毎日ひとこと日記をつけていたのですが、それをまとめて本にしようと動き出したところです」

田尾沙織さんが撮影した子どもたち

沙織さん撮影。一緒に連れていった、3歳4ヶ月の娘は「奏ちゃんまって〜」とマイペースに駆け回る奏介くんをずっと追いかけていました。



我が娘も、出生体重が1945gと低出生体重児で産まれ、3歳になった今でも同じ月齢の子に比べて、小柄な方です。お母さんにとって、事の大小に関わらず我が子のことはどんな些細なことであっても心配なもの。沙織さんの大変さもまた本人にしか決してわからないことですが、ただ同じ子どもをもつ親として、子どもたちを愛し、協力し、励まし合って、楽しく子育てができたらいいなと思います。奏介くんは本当に天使みたいでかわいく、彼が笑顔を向けてくれるだけで無敵な気持ちになれる、奇跡のパワーを与えてくれる子でした。それは、誰よりも「大きくなろう!」とする生命力に満ちているからかもしれません。そして、その瞬間を切り取った奏介くんの写真が、たくさんの人に生きる力を運んでくれますように。


田尾沙織
1980年、東京都生まれ。
2001年第18回写真ひとつぼ展グランプリ受賞。
2002年個展『ビルに泳ぐ』銀座ガーディアンガーデン。
2007年個展『LAND of MAN』good design company gallery (g)
また、2006年『シャッター&ラブ』渋谷パルコミュージアム、
2010年『「5人5色」 – HIKARIについてのある考察 -』GALLERY21など、グループ展にも積極的に参加。
http://taosaori.com/


edit&text:Nao Asakura
photo:Mariko Mibu