ママでありながら、自分の魅力を生かして活躍する素敵な女性たちをご紹介する企画「mama creators interview」。7回目は、イラストレーター/絵本作家のBoojil(ブージル)さんが登場。5月に初の絵本『おかっぱちゃん』も出版され、ご自身が運営する「東京おかっぱちゃんハウス」で原画展も開催しています。この原画展の初日におかっぱちゃんハウスを訪れ、絵本を出版されるまでのいきさつやご自身の子育てについて、お話を伺いました。
おかっぱちゃん=Boojilさん?
自身の旅エッセイ『おかっぱちゃん旅に出る』が、NHK Eテレでアニメ化されたことでも多いに話題となった「おかっぱちゃん」ですが、今回出版された絵本の中で、おかっぱちゃんは小さな女の子。「おかっぱちゃん」は、Boojilさん自身を投影した、分身のような存在なのでしょうか。
「おかっぱちゃんは私が20歳のときに生まれたキャラクター。これまでエッセイや漫画など、私が携わった創作物にたびたび登場しますが、場面によって等身大の30代になったり、小さな女の子になったりします。私の分身でもありますが、妹のような距離感の方が近いかもしれません。」


絵本の発売記念におかっぱちゃんハウスで開催された、『おかっぱちゃん』原画展。
絵本『おかっぱちゃん』のお話は、Boojilさんがメキシコ滞在中に似顔絵屋さんをひらき、お金ではなく“物々交換”でお客さんの似顔絵を描いた、という実体験から生まれたもの。
「これまで色々な国を旅してきましたが、絵を描くことで言葉の壁を乗り越え、現地の人たちとコミュニケーションを図ることができました。私が旅先で得たものは多く、そういった旅の面白さや絵を描くことの楽しさを、絵本を通じて親子で感じてくれたらいいなと思っています。」
『おかっぱちゃん』定価:1,404円(本体1300円+税)/出版社:あかね書房
大好きな絵本を紹介したことが、絵本を出版するきっかけに
Boojilさんの、これまでのお仕事の集大成ともいえる絵本『おかっぱちゃん』ですが、発売に至ったきかっけも、似顔絵屋さんだったといいます。
「日本で似顔絵屋さんをひらいているときに、来てくれていたお客さんの一人が、今回絵本を担当してくれた、あかね書房の榎さんでした。以前、私がおすすめの絵本としてある雑誌で紹介した『ぼくのふとんはうみでできている(著者ミロコマチコ)』が、岡本さんがご担当された絵本だったんです。それを岡本さんの似顔絵を描きながらご本人に聞いて、私が『大好きな絵本で、毎日息子に読み聞かせています』とお伝えしたら、大変喜んでくださって。」
実際にメキシコで使用していた似顔絵屋さんの看板。先住民族の女性に刺繍をしてもらったもの。
そのときは特に絵本を出版するというお話はされなかったようですが、数ヶ月後、岡本さんから「そろそろ絵本を描いてみませんか?」とお手紙が届き、Boojilさんも手紙でお返事したそうです。
「一緒に絵本を作り上げるには、編集者さんと気持ちが合致していないとうまくいかないと思います。電子メールではなく、“手紙”という温もりを感じ合える手段が、私たちの気持ちを繋げてくれました。」
息子も絵を描くことが大好き
「想像力の一部を入れながら、自分の世界観を100%出せるので絵本は今までの仕事の中で一番やりがいを感じた」と話すBoojilさんですが、息子の歓(かん)くん(3歳)には、ラフの段階から『おかっぱちゃん』を読み聞かせていたそう。今では歓くんは、物語を暗記しているのだとか。

敷地100坪、築60年の古民家を改築したおかっぱちゃんハウス。子連れでも居心地の良い空間。
「息子は気に入った絵本は『もう一回よんで』とねだるのですが、『おかっぱちゃん』を初めて読んであげたとき、そのように言ってくれて。それが子どもの素直な感覚なので、うれしかったですね。」
お母さんが絵の仕事をしている、というのは認識しているという歓くん。絵が大好きで、毎日のように保育園で絵を描き、持って帰ってくるのだそう。
館内ではboojilさんの描いた色彩豊かでエネルギッシュな絵が、 ゆっくり鑑賞できるのもうれしい。
「自宅では、子ども机の引き出しに、息子が自由に使える画材を用意しています。クレヨンや色鉛筆もありますが、中には私の仕事道具の透明水彩絵具なんかもありますね。私からはこれを描いて、などと特に指示はせず、自由に描かせて、できあがったものに『●●だね」とコメントしたりしています。」
夫婦協働、完全自営業だからこそ
今やイラストレーターに絵本作家、おかっぱちゃんハウスの経営者として、順風満帆にお仕事をされているBoojilさんですが、絵の勉強は一般的な小中高校の美術の時間で教わったこと以外、すべて独学でされてきました。服飾の専門学校を卒業してから人気イラストレーターとして飛躍されるまで、どのような軌跡があったのでしょうか。
一角にはBaby roomがあり、赤ちゃん用のおもちゃの用意も。
「はじめ、どうやって絵の仕事をしたらよいかわからなかったので、まず自分の好きなように描いた絵をポストカードやシールにして、100円とか10円ほどでフリーマーケットに出店して並べたんです。当時、同じように自分の作品を販売している人がまだあまりいなくて、結構見てくれる人がいて。私からも、なるべく見てくれている人に積極的に話しかけて、コミュニケーションを取るよう努力しました。最初はすごく緊張しましたけど…。
そうして出会った人の中で、運良く絵の仕事をくれた男性がいたんです。その人は劇団を主催していて、「子どもたちと一緒にやっているんだけど、ポスターの絵を描いてくれないか」と頼まれました。それで言われた通りに絵を描いて見せて、一回でOKをもらって。報酬もどう交渉したら良いかわからないので、『お気持ちだけで結構です』と伝えたのですが、きちんとした額をお支払いしてくれました。それが、記念すべき私の絵の仕事のスタートです。そういったことの積み重ねで、ここまできましたね。」
メキシコや中南米の民芸品が至るところに置かれており、異国情緒を味わうことができる。
当時ご両親やお友達に、「好きなことで食べていくのは無理だ」とイラストの道を反対される中、高校時代からの同級生だった今のご主人は、ずっとBoojilさんのイラストレーションの活動を応援してくれました。
イベントのない日の昼間は「cafe MUNDO」、夜と週末は「BAR思春期」として営業しているキッチンスペース。
「3年前に夫が脱サラしたときはどうしようかと思いましたが(笑)、生活のため、家族のためにここ数年間駆け抜けてきて、ようやく落ち着いてきたところです。今夫はおかっぱちゃんハウスのイベント企画・運営をメインに担当していて、家事・育児は曜日ごとに分担を決め、夫婦で完全に分担しています。一応割り当てはありますが、一方の仕事が忙しいときはもう一方が家事・育児をして支え合っています。もし夫が会社を辞めていなかったら、私はこんなにイラストの仕事ができていなかったかもしれませんね。」
Boojilさんのご主人は高校生のときからの大親友。今ではお仕事も家庭も共に経営する一番の理解者です。
原画展終了後、家族でメキシコ、キューバ、アメリカへ一ヶ月間ほど旅へ出るのだとか。
「ずっと大切にしてきている仕事があって。人の名前を絵にするプロジェクトなんですが、今までに1000人以上描いています。メキシコに行ったら、そのデザインした名前を刺繍にしてもらおうと思っていて。あと、お客さまに絵を贈るときの額縁も、メキシコにはユニークなものがたくさんあるので、選んでこようと思っています。」
メキシコへは、成田からメキシコシティまで直行便でおよそ12時間。Boojilさんと、家族の旅はまだまだ続きそうです。
Boojil(ブージル)
1984年神奈川県横浜市生まれ。メキシコ留学、世界各国を旅した経験から生まれた、カラフルでピースフルな作風でテレビ番組のアートワークや広告、雑誌などの紙媒体を中心にイラストレーションを手がける。2011年、自身の旅エッセイ『おかっぱちゃん旅に出る』(小学館文庫)がNHK Eテレでアニメ化、放映され話題に。2013年コミュニケーションを目的としたアトリエ兼、イベントスペース「東京おかっぱちゃんハウス」を東京練馬区にオープン。イベントの企画、アレンジなども行っている。2018年、絵本『おかっぱちゃん』で絵本作家デビューを果たす。ブージルとは、”自分のブサイクな絵をいじる”からなる造語。
http://boojil.com